ITストラテジスト(ST) 合格のコツと対策

情報処理技術者
情報処理技術者

ITストラテジスト(ST)は独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)が主催している情報処理技術者試験の区分のひとつです。今回はITストラテジストの勉強法を紹介します。

ITストラテジスト(ST)とは

試験を主催しているIPAはITストラテジスト像として以下のように挙げられています。

「高度IT人材として確立した専門分野をもち、企業の経営戦略に基づいて、ビジネスモデルや企業活動における特定のプロセスについて、情報技術を活用して改革・高度化・最適化するための基本戦略を策定・提案・推進する者。また、組込みシステムの企画及び開発を統括し、新たな価値を実現するための基本戦略を策定・提案・推進する者 」

つまりITストラテジストの試験では経営戦略に基づき、情報技術を活用した戦略を考え、実行するための知識が求められています。

ITストラテジストは旧制度下で屈指の難易度を誇るシステムアナリスト試験と上級システムアドミニストレータ試験を前身としているという経緯から、現行制度の下、情報技術者試験の全ての区分の中で最高レベルと言えます。IT系の資格では唯一、弁護士、公認会計士、医師、技術士等と並び、厚生労働大臣によって「専門的知識等を有する労働者」に指定されています。

私の経験では、現場でITストラテジストを持っている人は皆無で、合格者は経営企画や商品企画系の部署に所属していました。経営企画と情報技術という2つの軸で高いレベルでの視点を求められることから、数ある資格試験の中でもかなり高い難易度となっています。

試験の概要

・試験日:4月(目安3週目)※令和元年までは4月実施
     午前1が50分、午前2が40分、午後1が90分、午後2が120分
・合格点:全て基準以上で合格(午前1のみ免除あり)
・合格率:約15%

ITストラテジストは午前が選択式、午後1が記述式、午後2が論文式の出題となります。いずれも不合格があるとそれ以降は採点されません。例えば午前1が免除で午前2が50点だった場合、午後1と午後2は採点されません。なお応用か高度区分に合格するか、高度で午前1に合格した場合、試験申込時に申請することで2年間は午前1が免除されます。また、午後2は論文形式での回答となり、相対評価で一定以上のランクに入る必要があります。

おすすめの参考書

この試験では経営とITの2つの軸を意識しながら勉強することが重要です。特に午後2の論文形式での回答には2,200文字から3,000文字程度の記述が必要であり、かなりの対策が必要となります。とはいえ、試験の中で独創的なアイディアを示す必要はなく、ITストラテジストとしてとるべき思考や行動が一定レベル以上であることを表現できれば合格は可能です。

ミニマムの勉強でいえば、午前対策の問題集と午後問題の対策本があれば合格は可能です。筆者は勉強の開始時点で経営系の知識がそれなりにありましたので、以下の2冊で合格できました。

ITストラテジスト

しかし、経営系の知識や経験が足りないと感じる方はケーススタディのストックが必要です。また、論文サンプルを通して「受かる論文」の例を研究することも必要でしょう。

午前問題の対策

午前1は問題数が全30問で、他の高度区分と共通の問題です。応用情報の午前問題と同じようにテクニカル系、マネジメント系、ストラテジ系の分野が出題されます。60%で合格なので18問正解が必要です。6-7割くらいは過去問とほぼ同じ問題が出ますので、情報技術者試験を技術系の区分から受けた後にITストラテジストを受験する層にとっては合格は難しくないでしょう。

午前2は問題数が全25問で、ストラテジ寄りの出題が多くなります。マーケティングや分析手法に関しては流石に専門的で聞きなれない用語も出題されます。60%で合格なので15問正解が必要です。半分は過去問とほぼ同じ問題ですから、午後試験に比べればまだまだ準備運動と言ったところでしょうか。

午前問題の勉強のコツは苦手分野を作らず、基本的な事項を繰り返し学習することで、理解を深めることです。経営系の知識に重点をおくことになるため技術系のポイントがおろそかになりますが、午後はAI・ビッグデータなど新しい技術の活用も出題されますので、ITストラテジストとしての立場を常に頭の片隅に置きながら勉強しましよう。

午前問題にはあまり時間をかけず学習し、早く午後問題の対策(特に論文対策)に取り組むことが必要です。

午後1(記述式)の対策

午後1からがITストラテジスト試験の本番といえます。

午後1は全4問のうち選択した2問を回答します。決まった対策法があるわけではないのですが、文章は常識的なことが書いてあるため、ある程度の知識があれば比較的簡単に答えられます。文章をよく読めば回答のヒントが書いているため、突飛なことは書かず問題文の記載に沿って回答します。大問1つにつき1問あるかないかぐらいの割合で、問題文にない回答を自分で捻り出す必要があるのですが、多くの場合、模範解答を導出できないので、あまり気にせず時間をかけずに回答しましょう。

問題演習での勉強が中心になりますが、不正解となった理由はよく確認するようにしましょう。不正解のパターンは「問題文中のヒントに気がつかなかった」「問題文中のヒントの選択が違った」「問題点や改善点が思いつかなかった」に集約できると思います。自分が間違えがちなパターンをよく理解し、正解を導出するロジックを身につけましょう。

演習を繰り返し、時間内に解けるようになることも重要です。

午後2(論文式)の対策

午後2の論文が試験の山場です。おそらく論文対策に一番時間をかけ取り組むことになるでしょう。

論文のテーマは3つの大問として提示され、その中から1つ選び回答することになります。テーマとして、大問1は適切なKGI・KPIの設定が肝となることが多く、大問3は組み込みシステムの企画が出題される傾向にあります。年により回答しやすいテーマは異なりますので、どのジャンルのテーマにも対応できるように用意しておくことが望ましいでしょう。

テーマを選んだら、問題として抑えるポイントが小問として提示されます。よくある小問構成は、小問1が論文全体の概要や経営環境、小問2が課題とその対策、小問3が提案および評価というものです。この流れで有機的に1つのテーマの論文として試験時間内に仕上げる必要があります。

対策方法として、論文を書き始める前に、ストーリーや重要ポイントを章立てすることをおすすめします。IPAから毎回試験全体の講評が公表されているのですが、そのフィードバックの中で「途中で記載が矛盾している」「回答すべきポイントが記載されていない」とかなりの頻度で指摘されています。逆にいえば、内容に矛盾がないことや問の指示に沿った回答が論文に求めらているということです。

試験時間は120分ですが、私の場合、章立てと論文情報の記載に25分、800字程度で小問1に20分、1,200字程度で小問2に35分、1,000字程度で小問3に30分、見直しに10分程度という時間配分を意識していました。章立てに時間をかけすぎと感じる方もいるかもしれませんが、個人的には章立ての時点で小問3の内容(論文の結末)まで考えるなら妥当な配分だと思います。論文の全体構成がまとまっているなら、小問1として書くべき内容を漏らさず記載できるでしょう。ちなみにこの時間配分で小問2と小問3をほぼノンストップで最後まで書ききることになります。

論文のポイント

論文を書くにあたり、おさえるべきポイントが2つあります。

ITストラテジストとしてふさわしい立場から論文を書くこと。

よくある不合格論文がITストラテジストの視点で論文を書けていないというものです。どういうことかというと、特に技術者出身の方に多いのですが、プロジェクトマネージャーや開発者の視点で論文を書いているというものです。現場の改善やプロジェクトの管理が果たして企画する者の視点としてふさわしいでしょうか?ITストラテジストとしての立場を常に忘れないようにしましょう。

採点するに値する論文を書くこと。

採点者は論文をもとにあなたがITストラテジストとしてふさわしいかを判断することになりますので、読むに値する論文を意識します。情報処理技術者試験にもかかわらず、回答は手書きですから採点者に読もうと思わせる論文を書きましょう。美しい文字である必要はありませんが、丁寧かつ読める字で書くことです。普段はキーボードで資料を作成しているでしょうから、手で文章を書くことに慣れておきましょう。

章立てに沿って適切に改行するなど読みやすくする工夫も有効です。また各小問には文字数の範囲が指定されていますが、論文はマス目付きの原稿用紙ですから、回答中に何文字書いたかおおよそわかります。行数でのカウントで最低文字数以上は必ず埋めましょう。埋めにくい場合は見出しや改行を活用し、なんとか最低文字数をクリアするようにします。なお最低文字数の指定がない場合は、指定文字数の85%以上埋めることが目安です。

ITストラテジストの試験はかなりの難易度ですが、受かった時に得られるものは労力に報いるものになるでしょう。ぜひ合格を目指してみてください。

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